2019年9月24日
対応が悪いと思っていた家電量販店の店員が実は、ただただ一生懸命だった話
チュンチュン。
鳥のさえずりは聞こえてこない日曜日の10:30。
寝過ぎた。
ワンピースも見逃してしまい、もう日曜日の目的を失ってしまった私に、嫁からとあるミッションが課せられた。
「ゆきちゃんと遊びに行ってきたらいいやん」
ゆきちゃんとは2歳の娘のことだ。
念のため「何でなん?」と聞こうとしたが、「何で何でなん?っていうの?」と、言われることを想像できたので「うん。わかった」と言った。
そんなこんなで準備を終えた娘と私は、車で5分のショッピングモールへ向かった。
お目当ては「ピュアハートキッズランド」
そう。子供の遊び場だ。
フリータイム990円で、子供が思う存分遊べる上に、私はマッサージチェアで思う存分ゆっくり出来る至福の空間。
娘は遊具。
私はマッサージチェア。
進むべき道は違えど、目指すべきゴールは同じだ。
さぁ。
いまこの自動扉をくぐれば・・・。
って、なんじゃこりゃぁぁぁぁああぁぁあぁぁあ
さすが日曜日の12:30。
夢の国を彷彿とさせるほどの長蛇の列ができている。
娘に「あそこには鬼さんがいるから近寄るのはやめよう」と謎の言い訳をし、夢の国を後にした私たちはショッピングモールに到着して5分で目的を失った。
なんて日だ。
しかし私は大人だ。
こんな試練は幾度となく乗り越えてきた。
そう。私は元店長だ。
未来を予測し、今何をすべきかを瞬時に把握出来る。
私の計画はこうだ。
家電量販店へいき、トレーニンググッズコーナーで、ブルブルと震える板に乗り娘の体力を奪う。
そして共にマッサージチェアでくつろぎ、あわよくば娘は2時間ほど眠りにつき私は至福の時間を過ごすというものだ。
完璧な計画だ。
そんなこんなで、家電量販店についた。
しかし私は、あるものに目を奪われた。
それは新作iPhoneだ。
背面にはカメラが3つも付いている。
気になってついついiPhoneを手にとってしまった。
この時点で私の負けは確定した。
そう。
オレンジ色の制服を着た店員が歩み寄って新作iPhoneの魅力を語り始めた。
私は店員さんに話しかけられると、断れない性格だ。
「買わねぇけどな」なんて思いながら店員さんの話を聴いていた。
しかし、子供は正直だ。
意味のわからない店員さんのセールストークに飽き飽きし、「遊びたいぃぃぃっぃいいぃぃぃっぃいぃっぃぃっぃ」とだだをこね始めた。
そりゃそうだ。
夢の国を断念した娘はフラストレーションが溜まっている。
しかし、泣きじゃくる娘には目を向けず、オレンジ色の制服を着た店員は私に新作iPhoneを売ろうと必死だ。
娘はさらにエスカレートし、大泣きしている。
仕方なく大泣きしている娘を抱っこした私に、オレンジ色の制服を着た店員は新作iPhoneを売ろうと必死に新作iPhoneの魅力を熱弁してくる。
このとき私は思った。
「泣きじゃくる娘を無視してiPhoneを売ろうとセールストークを続けるなんてどうかしてる。なんて対応が悪い店員だ。ファッキュー」
すこしイラだった私は、「また来ます」という謎の嘘をついてその場を後にした。
そんなこんなで、娘とトレーニンググッズコーナーで、ブルブル震える板に乗ったり、フードコートでドーナツを買ったりして楽しい時間を過ごしていたはずなのに、頭の中はオレンジ色の制服を着た店員のことで頭がいっぱいだった。
何か引っかかっていた。
私は店員に対して「対応の悪い店員だ」と思っていたが、よくよく思い返せば彼の新作iPhoneのセールストークは魅力的で親切だった。
もし私がiPhonexsではなく、iPhone8を使っていれば今すぐ買い換えていただろう。
つまり彼は一生懸命だった。
一生懸命私に魅力を伝えてくれていた。
恐らくベテランではなさそうな彼は、私に一生懸命、新作iPhone魅力を伝えてくれていた。
では、なぜ私はこんな一生懸命頑張る彼に対して「対応の悪い店員だ」と苛立ち「また来ます」という謎の嘘をついたのだろう。
私は気付いた。
彼はただ目の前の状況が見えていなかっただけだった。
娘がダダをこねているこの状況を理解できていなかっただけだった。
元店長の私からすれば、「携帯を売ることが目的になり目の前のお客様に不満を与えてはいけない」と思うが、そんな当たり前のことに彼は気付いていなかった。
ここで2つの感情が芽生えた。
1つ目は「感謝の気持ち。」
私は上司に「目的と手段」について口を酸っぱくして指導してもらった。
「料理を作る事は目的ではなく手段。私たちは料理という手段を用いてお客様を幸せにするという目的を達成するのだ。」と何度も指導してもらった。
だからこそ私は「目的と手段」の考え方が染みついている。
だからこそ泣きじゃくる娘を無視して、私に新作iPhoneの魅力を語る店員に違和感を感じたのだろう。
上司が指導してくれたおかげだ。
2つ目は「悲しい気持ち。」
私は上司に指導してもらえたから当たり前の感覚だが、恐らくオレンジ色の制服を着た店員は上司から教わっていないのだろう。
あんなに新作iPhoneの魅力を一生懸命語る彼は仕事をさぼるタイプではない。
元店長だから見ればわかる。
もし、上司に「目的と手段」を教わっていたら新作iPhoneの魅力を語るのを辞め、娘に飴ちゃんか風船でも渡してなだめてくれただろう。もしくはiPhoneのカメラ機能を使って娘を楽しませ退屈をしのぎつつ、私に新作iPhoneの魅力を伝えることができたであろう。
それほどのポテンシャルはあった。
なのに、上司に教わったのはiPhoneを売るセールストークだけだ。
私は悲しかった。
上司の指導1つで、こんなにも部下の評価は変わってしまうのだ。
覚えたての新作iPhoneの魅力を一生懸命伝えてくれた彼は、購入開始前から必死に勉強し練習したのだろう。
でも、その努力も目的を理解していないと、悲しい結果を生むことになる。
オレンジ色の制服を着た店員から学んだ事は大きかった。
今度彼に会うのがなんだか楽しみだ。
そんな事を考えながらドーナツを手土産に、私と娘は家に帰った。
時刻13:20。
帰宅した私を見た嫁の顔が鬼の形相をしている。
無理もない。娘とのデート時間は1時間足らず。
手土産のドーナツがなかったら私の命は無かっただろう。
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てんちょー
1994年生まれ関西在住。好きなこと「新しいこと」悪く言えば飽き性。
苦手なことは「誰でもできる作業のルーティン」つまり飽き性。高校卒業後PISOLA(イタリアンレストラン)に就職し2年後には店長に。
3年間店長を務める傍ら、副業で個人ブログを開設。そのスキルを活かし現在はWeb社内報“PISOLAパートナーサイトと当サイト”TENJOY”を立ち上げ編集長を勤める。
@tenchoglam
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